手術・治療SURGERY AND TREATMENT

膝の靱帯損傷の治療について

靭帯損傷の治療は手術以外の治療(保存療法)と手術療法とにわけられ、損傷の部位や程度、半月板損傷の有無、不安定性の有無、スポーツ等への復帰などによって総合的に判断されます。

例えばスポーツなどで受傷頻度が比較的多い前十字靭帯の損傷などでは、関節内に位置する靭帯であり血流に乏しいことなどから原則的に自然治癒が望めないため、スポーツ復帰を目指す場合などは早期の手術を行うことが一般的ですが、スポーツを行わない場合や高齢の場合など、社会的背景を考慮し保存療法を選択することもあります。

関節の不安定性が残存すると軟骨や関節の変性等が起こりやすくなること、昨今の技術発展による低侵襲化や手術成績の向上などから、以前に比べて手術療法が選択されることも増えてきています。

保存療法(手術以外の治療)

損傷が軽度で不安定性が大きくない場合や、日常生活に大きな支障がない場合などは手術を行わず、保存療法で様子を見ます。装具による固定を行いつつ、痛みや組織の回復に合わせてリハビリを行って筋力や可動域の改善を図り、安定性を獲得していきます。また、必要に応じて痛み止めを内服したり、注射で貯まった水を抜いたりすることもあります。

後十字靭帯や内側側副靱帯の損傷では、前述の前十字靭帯の損傷に比べて不安定感が小さいことや、比較的血流のよい場所に靱帯が位置しており、靱帯の修復が行われやすいとされていることなどから、手術を行わず保存療法が選択されることも間々あります。

装具療法

装具を装着し、不安定になった膝をサポートします。また、膝の可動域を制限したり、膝関節がぶれることを制動したりすることによって靭帯への負担を軽減します。装具には多くの種類があり、損傷の部位や程度などに応じて処方されます。

装具療法

リハビリ

リハビリでは、太腿の筋肉(大腿四頭筋)を中心に膝の安定性に関わる筋肉を鍛えたり、関節の可動域(曲げ伸ばし)を改善させるためにストレッチなどを行います。

受傷直後

受傷して間もない内は炎症や内出血が起こっています。この時期に無理に膝を動かすと炎症が悪化してしまうため、負荷を調整しながら関節が固まってしまったり、筋力が低下してしまったりすることを防ぎます。

  • 安静やアイシングによる消炎処置
  • 松葉杖等の処方、指導
  • 物理療法(アイシングや電気治療、超音波治療など)

腫れや痛みが引いた時期

受傷からしばらくして炎症が治まってきたら、運動療法を中心として低下した筋力や可動域の改善を目指します。動き方を練習したりすることで、靭帯に負担のかかりにくい動きを習得し再発予防に繋げることなども行っていきます。

  • 可動域運動
    痛みにによる筋肉のこわばりや関節の硬さはスムーズな動きを妨げるため、それらの組織に対してストレッチやマッサージなどを行い、柔らかく動きやすい関節を取り戻します。また、膝関節は足首や股関節などの影響を大きく受けることから、それらの動きを確認し必要に応じて介入を行います。
  • 筋力訓練(筋力トレーニング)
    ケガによって膝を動かさなくなると筋力は低下していきます。
    また、膝周囲(主に太腿)の筋肉は、膝にかかる負担を軽減し、安定化させる役割を持ちますので、筋力訓練によって筋力を鍛えてきます。
  • バランス練習や運動の再学習
    人間はどこかをケガすると、そこをかばう動きが癖になり元の動きを忘れてしまうことがあり、他の部位に負担が集中したり動きの効率が悪く疲れやすくなったりといった弊害が出現します。バランス練習や動作の練習を行うことでそういった動きを修正し、元の動きを取り戻します。 また、スポーツなどで靭帯を損傷しやすい動きを修正し、再発予防に繋げます。例えばknee-in toe outと呼ばれる膝が内側に入る動作などは代表的な靭帯損傷を引き起こしやすい動きです。

予後

損傷の程度にもよりますが、通常4週程度で靭帯の機能が回復してくると言われています。ただ、前述の通り、前十字靭帯損傷の場合などは、保存療法ではスポーツ復帰は厳しいことが多いとされています。それ以外の靭帯では一般的に2~4か月程度で協議復帰を目指していきます。

手術療法

前・後十字靭帯損傷に対しては「靭帯再建術」と呼ばれる手術が行われます。

内側側副靱帯のみの損傷に対しては手術が行われることは少なく、他の靭帯との複合損傷の場合などに「靭帯縫合術」と呼ばれる切れてしまった靭帯を縫い合わせる手術が行われます。

膝の靱帯損傷の手術

手術後のリハビリ

膝の靱帯損傷のリハビリ

手術後のリハビリでは、低下した筋力や関節の柔軟性を回復させ、手術後早期に日常生活を自立させ、社会復帰(スポーツ復帰)することを目指します。手術した靱帯に適切な負担をかけながら安全にリハビリを進めていきます。

スポーツ復帰のためには手術から半年~1年が必要となります。